しほ先生のつぶやきコラム

本当の「殺処分ゼロ」を目指したい “「殺処分ゼロ」の定義明確に。譲渡困難な犬猫除外”の記事を読んで


こんにちは、しほ先生です。

先月、殺処分ゼロに関するニュースを目にしましたが、みなさんご存知でしょうか。 「しつけが出来ていないせいで保健所に連れて来られる犬の頭数をゼロにする」という目標を持って活動する訓練士として、今回はこの記事から感じた事をお送りしたいと思います。

ーーーーーーーーーーーーー
「殺処分ゼロ」、定義明確に=譲渡困難な犬猫除外-環境省
引用元:https://www.jiji.com/jc/article?k=2018050200697&g=soc

環境省は、自治体が掲げる犬猫の「殺処分ゼロ」の定義を明確化し、譲渡が難しいケースを除外する方針を固めた。引き取った人がかまれる事故や感染症の流行を防ぐのが狙い。今年度に改定予定の動物愛護に関する指針に盛り込みたい考えだ。

 2012年に改正された動物愛護法では殺処分がなくなるよう、都道府県などが引き取った犬猫の譲渡に努める義務が明記された。これを受け、都道府県や政令市など42自治体が「殺処分ゼロ」を目指して活動。13年度に約12万8000匹だった殺処分数は16年度には約5万6000匹に減った。
 一方で、環境省が集計・発表している殺処分数には譲渡に適さない個体や保護中に死んだ個体もカウントされるため、完全にゼロにはできない課題も出てきた。16年度の殺処分のうち、病気や攻撃性を持つことから「譲渡が適切でない」と見なされた犬猫は約1万6000匹に上った。自治体によっては、「殺処分ゼロ」を急ぐあまり、動物愛護団体に次々に譲渡し、シェルターが過密状態に陥るケースもあるという。
 環境省としては、譲渡が難しい個体の殺処分はやむを得ないとの考え。東京都など「殺処分ゼロ」を目指す自治体の一部は、既に対象を譲渡に適した犬猫に絞っており、同省も譲渡困難な犬猫を除いた集計を本格的に実施することにした。
ーーーー時事通信社 jiji.com 2018.05.02の記事より引用—–

「殺処分ゼロ」っていい響きですよね。実現ができたら、素晴らしい事だと思います。 私も犬の訓練士という立場から、人間の都合によって処分されてしまう犬を減らしてゆくために出来る事を日々模索しています。その一環として、イヌバーシティは「飼い主の知識不足で保健所に連れてこられる犬をゼロにする」という目標を掲げて活動をしています。

しかしながら、現時点では受け入れ側の体制が整わない状態で殺処分「ゼロ」を目指すというのは無理があると個人的には思っています。 保健所では命に期限があります。期限のない場所で貰い手を探したかったら、現時点では大部分をボランティア団体に頼るしかないのが現状です。

「殺処分ゼロ」を目指すばかりに愛護団体が過密になるという問題が記事中で指摘されていますが、世話する人員の知識不足という面でも大いに問題があると私は考えています。

動物の保護に尽力するボランティアさん達には、本当に頭が下がります。言葉を持たない動物のために自己犠牲を厭わない姿勢には、感謝しかありません。 しかしながら、ボランティアさんの多くは善意で活動している一般の方がほとんどで、犬に関する特別な資格や知識を持っている方というのは少ないのが現実です。

動物は何を求めているのか? 自身のどんな行為が問題行動を改善させるのか? はたまた悪化させるのか?と言ったことを、世話する側がしっかりと理解していないと、現場はカオスになってしまいます。愛情だけではどうにもならないケースも多々あるでしょうし、ボランティアさんたちのご苦労や、それに伴う個人の犠牲も大きいものになります。

物理的にも知識的にも受け入れ態勢が整わない中で「何でも来い」で受け入れ数ばかりが増えてゆけば、運営が苦しくなり、当初団体が掲げている理念と現実にねじれが出て来てしまう事も多くあるのが現実です。 

ですから、私は、殺処分ゼロを目指すのは実際問題としてまだ実現は難しいと思っています。ハ設備を整える事ばかりに注力せず、きちんと専門家が関わり、人材育成面でも充実を図らないといけないでしょう。

そんな気持で先ほど紹介した記事を読むと、単純に響きの良い「ゼロ」という数字を追うのではなく、ゼロには出来ないことをきちんと認めた上で、ゼロに近い数字を目指してゆくという考え方には大いに賛成です。

でも・・・・・・諦めなければならない命をカウントしないというのはどうなのでしょう。

実際に処分されている犬がいるにも関わらず「殺処分はゼロでした!」と謳う事には違和感を覚えずにはいられません。

「飼い主のしつけの知識不足や甘さが原因で捨てられ、その後も譲渡をあきらめざるを得なかった命がこれだけあるんだぞ」「病気が原因で飼育放棄をされた犬がこれだけいるんだぞ」という部分を伝えなくてよいのでしょうか?

結局、聞こえの良い「ゼロという数字」を達成したいだけ??と思ってしまいますね。実際はゼロではないのに・・・。処分されている命があるのに・・・・。「ゼロ」を達成した満足感の陰で、本当の意味での殺処分ゼロが忘れられてゆくような気がしてなりません。

処分された犬が何頭いたのか。なぜ処分されるに至ったのか。更には、この犬たちが殺されずに済むためにはどうするべきだったのかまで分析し公開して初めて、人々の意識に残り、本当の意味での「殺処分ゼロ」への第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

未だに年間47000頭の犬が保健所に持ち込まれています。しかも、その実に1/7が、飼い主が直接持ち込んでくるそうです。年間およそ6000頭。ただただ、飼い主の知識不足の結果です。(残りの41000頭のなかには、わざわざ保健所に持ち込む前に、飼い主都合で捨てられた犬も相当数いますので、「飼い主の知識不足」が原因の保護頭数は実際はもっと多いでしょう)

本当の意味での「殺処分ゼロ」を目指すのならば、まずは飼い主一人一人が犬という動物について学ぶことが必要不可欠です。イヌバーシティが本当の意味での飼い主教育に貢献して、結果的に手放したくなるような犬がいなくなればこの上でない光栄です。