先日、イギリスでペットショップでの子犬や子猫の販売を禁止する方針を打ち出したとのニュースを目にしました。
http://www.afpbb.com/articles/-/3186946

イギリスでは劣悪な環境でのペット用の子犬や子猫を繁殖させるパピーミルが問題になっており、出所のはっきりしない子犬や子猫を販売するペットショップでの販売を禁止することによって悪徳業者を排除する狙いがあるのだそうです。

イギリスのみならず、日本にもパピーミルは多数存在しています。たまに、パピーミルが崩壊し、多数の里親を必要とする犬が出て話題になりますね。「パピーミルの撲滅」、 是非この動きが日本にも広がって欲しいと思っています。

パピーミルをご存知ですか?

先ほどから何回か「パピーミル」という言葉が登場していますが、皆さん、パピーミルってご存知ですか? 直訳すると「子犬工場」です。なるべくお金を掛けずに出来るだけたくさんの子犬を量産し、母犬や種犬、ひいては産まれてくる子犬の福祉に関して全く配慮のない儲け優先の悪徳ブリーダーの事を指します。(参考:Wikipeia 「パピーミル」

劣悪な環境の中で、排泄物まみれの小さなケージの中で餌だけ与えられ、何の楽しみもないまま次々に子犬を産ませられる犬たちが、今この瞬間にもたくさんいるという事実に心を痛めずにはいられません。犬たちの悲しみに満ちたパピーミルは撲滅すべきです。

でも、産まれて来た犬に罪はないでしょ? 産まれがどこでも子犬は子犬。立派な犬舎で産まれた犬と同じように愛情をかけて育てれば幸せになれるでしょ? と思う方もいらっしゃるかもしれません。

そのような考え方も決して間違いではありません。でも実は、そんなに安易な話でもないのです。子犬がどのような環境の下で産まれたかは、その後の飼い主さんとの暮らしにまで大きく影響してくるのです。

今回は訓練士目線で「行動学的な視点で見たパピーミルの影響」についてお話しようと思います。

パピーミルで産まれた犬が抱える問題

皆さんに、「犬の社会化」のお話はこれまで何度もしてきたと思います。おいさらいをしておくと、犬の社会化とは、端的に言うと、犬がこれから生きてゆく環境の中で、何を信頼するべきで、何を避けるべきかを学習をすることです。

生後2か月に満たない、幼い子犬は、まずは母犬から色々な事を学び取ります。そこで、人間に対して不信感を抱いている母犬に育てられた犬は、「人」をどういうものだと学習すると思いますか?

人が近づいてきたときに、母犬が怯えて逃げていたら、子犬は人間は怖いものだと学習します。母犬が威嚇して吠えていたら、子犬は人間は追い払うべき存在だと学習します。それが、自分の命を守るための最大の「社会化学習」だからです。

小さい子犬の頃に身についたことは、その犬の性格や考え方を作る土台となります。

子犬のころに「人は怖い、嫌い」という社会化学習をしてきた犬を、その後人間好きに変えてゆくのは大変なことです。飼い主さんには慣れても、初めて会う他人は警戒してしまい、人慣れをさせるためには、人一倍、人とのポジティブな関わりを必要とするでしょう。「人間はみな信頼できる」という犬にするのはひと苦労です。

また、母犬が、自分の排泄物にまみれ、糞尿のにおいが蔓延している場所で生活していたら、子犬はそれを「いやだ」と思うでしょうか? 答えは、NOです。そのような場所で生活することが当然だと学習し、自分の排泄物まみれになることに抵抗がなくなってしまいます。

犬のトイレトレーニングでは、「生活の場を排泄物で汚したくない」という、犬がもともと持っている本能を利用します。この本能の部分がなくなってしまった犬のトイレトレーニングは大変です。通常ならば2週間程度で終わるトイレトレーニングに何か月も時間がかかったり、どんなに訓練しても100%完璧と言えるまで到達しない場合もあります。 飼い主さんは、本来はしなくてもいい苦労を強いられることになります。

母犬からの早すぎる引き離し

また、母犬や生活環境から受ける影響以外にも別の問題も出てきます。

現在、動物愛護法により、生後49日以前の子犬を母犬から引き離し、取引をすることは禁止されています。・・・が、実際は49日に満たない子犬が取引されている事は事実です。多くはパピーミル出身の犬たちです。

子犬は若ければ若いほど高くてもよく売れます。(ここも本来であれば買う側のほうが認識を改めなければければならないところです)当然、月齢が進めば売れにくくなり、店舗側は子犬の値段を下げなければいけなくなりますので、できれば動物愛護法で許されるギリギリ49日で販売を開始したいんですね。

子犬が販売店の陳列に並ぶまでのルートは様々なものがありますが、ブリーダーからの直接引き渡しでない限り、当然「出荷」は49日より前倒しになるわけです。

動物愛護法が子犬の心身の成長を考慮したうえで制定した「49日」は、母犬や兄弟犬の下で育まれるべき日数です。

49日以前に引き離された子犬は、母親や兄弟のぬくもりを感じながら健全に育まれるはずだった心の成長が途中で成長が止まってしまうわけです。守られる安心感を感じることができずに育った犬は、分離不安などの精神疾患に陥りやすくなります。

分離不安症は、犬にとっても飼い主にとってもとても厄介な精神疾患です。飼い主さんへの依存が強くなり、姿が少しでも見えなくなると不安な気持ちに押しつぶされ、過剰に吠えたり暴れたり、時には自傷行為に走る事もあり、飼い主さんはお出かけすら出来なくなってしまいます。

正常な精神状態にない犬を一般的になしつけ訓練で直そうと思っても無理です。まずは精神疾患から改善しなけれればなりません。犬本人の自信を育むために、飼い主さんと犬との生活を根本から変える事から始めなければなりません。 大変な根気と苦労を伴います。やはり、飼い主さんはしなくても良い苦労を強いられるわけです。

パピーミルを撲滅するために飼い主さんが出来る事

ペットショップに並ぶ犬はみな可愛いですね。ペットショップの陳列棚に並んだ犬を見ただけでは、その子がどんなところで産まれ、どんな環境で育ち、どんな学習をしてきたのかを知る由はありません。

どの飼い主さんも、犬との楽しく素晴らしい生活を思い描いて子犬を家に連れて帰ることでしょう。しかし、その子が、これからの一生を人間社会で生きてゆく上で望ましくない学習をしてきてしまった犬だったとしたら・・・・・飼い主さんを待ち受けているのは「こんなはずじゃなかった」という可能性が高くなってしまいます。

もちろん、劣悪な環境で育った犬を迎え入れたらそれでゲームオーバーではありません。飼い主さんの愛情と、正確な知識とたゆまない努力があれば、子犬はぐんぐんと成長してゆくでしょう。苦労して育てた犬というのは、愛しさもひとしおです。悪い事ばかりではありません。努力してくださる飼い主さんのところへもらわれた犬は幸運ですが、不幸にも、知識が無かったり、気持ちがくじけてしまい犬を手放すという決断をする方も中にはいらっしゃるでしょう。

わざわざ大変な苦労を飼い主さんに強いるような犬を、人間のエゴにより「生産」することがあってはなりません。

すべての家庭犬は、飼い主さんの生活をより豊かで楽しいものにし、可愛がられるために生まれて来ているはずです。そうなるチャンスを低くしてしまうパピーミルや、出所の分からない子犬を販売するペットショップには、やはり反対の一石を投じずにはいられません。

子犬を飼う時には、きちんとブリーダーさんを見に行き、話を聞き、母犬や生活環境を確認することをお勧めします。 ペットショップであれば、どこの犬舎から来た犬なのかを聞いてみて下さい。犬たちに愛情をかけ、親犬も子犬も皆健康で幸せに暮らせるよう、にたくさんの配慮をした素晴らしいブリーダーさんはたくさんいらっしゃいます。種の保存に熱心に取り組まれているブリーダーさんもいます。

パピーミルのような繁殖場がなくならないのは、それでも子犬の需要があるからです。子犬を販売するペットショップがパピーミルから子犬を入荷すべきではないのは当然ですが、買う側も、パピーミルの儲けの一端を担わぬようにすることも必要だと思います。消費者もパピーミルを撲滅する事に直接貢献することができるのです。 それが同時に真面目に子犬を繁殖しているブリーダーさんの努力を適正に評価することにつながり、もっと良い犬が家庭犬としてたくさんの家族の一員となり、幸せを広げていってくれると思います。

最後になりますが、出荷までの生活環境が犬の土台を作る全てでも無いことは忘れてはいけません。 完璧な環境で育ってきた犬であっても、家庭に迎え入れた後の接し方が間違っていれば、社会化は進まずに人嫌いにもなりますし、トイレのしつけも自然に出来るようになるわけではありませんし、分離不安にもなります。

大切な事は、飼い主さんが知識を持っておく事です。子犬を迎え入れる時も、育てるときも、知識があるのとないのでは、その後の犬との暮らしに雲泥の差が出てきます。

飼い主さん個人の地道な学習や心がけが、長い目で見れば殺処分ゼロへの第一歩になると思います。この思いが少しでも多くの未来の飼い主さんに届きますように。