獣医師の記事

犬が自分の尻尾を追いかけ回したり手をなめ続けたりするのはストレスが原因?(獣医師作成記事)

犬はストレスが積み重なると、自分の尻尾を追いかけ回して噛んでしまったり、自分の体の一部をなめ続けてなめ壊したり、毛を引き抜いてしまうという自傷行為が見受けられることがあります。

これらは追いかける、舐めるといった、同じ行動を無目的に繰り返す「常同行動」が原因となっています。

ストレスのタイプは様々で、環境の変化や不適切なしつけが原因となることもあれば、退屈であることも犬にとって大きなストレスの一因となります。

しっぽを追い回したり手をなめ続けるような常同行動は、ワンちゃんの心の叫び?

今回は、愛犬がたえず自分の尻尾を追いかけ続けて困っている、という飼い主さんがご相談にいらっしゃっています。とうの先生、よろしくお願いします。
初めまして。獣医師のとうのです。今日はよろしくお願いします。
今回の相談者
今回の相談者
 初めまして。よろしくお願いします。

私の愛犬は2歳の雑種なのですが、数ヶ月前から不思議な行動をとるようになりました。突然、尻尾を追いかけ回すんです。疲れるまでずっとです。

そうなんですね。不可思議な行動ですし、飼い主さんもとても不安ですよね。
今回の相談者
今回の相談者
はい。いくら怒っても止まってくれないし、しまいには尻尾を噛んで自分で自分の尻尾に怪我をさせてしまったこともあるんです。

一体なんでこんなことをしてしまうのか不思議ですし、いつか尻尾を引きちぎったり、大怪我しないかと不安で仕方ないです。何かの病気なのでしょうか?

”自分の尻尾を無目的に追いかけ続ける”という行為は”常同行動”と呼ばれるものの可能性が非常に高いです。

端的に言うと、心の病気の可能性があります。

常同行動とは?(読み方:じょうどうこうどう)

常同行動とは”異常な頻度で同じ行動を反復的かつ持続的に繰り返す”こと。

そして、常同障害とは”上記の行動により、飼い主と動物の生活に支障をきたす”ことをいいます。

簡単に言うと、”ずっと意味がなさそうな同じ行動を繰り返してしまうこと”です。

高齢の場合は認知障害の一部で常同行動を起こしてしまうので区別がつきづらいですが、比較的若齢で発症する場合は認知障害とは別の原因を考慮する必要があります。

ヒトの強迫性障害(戸締りなどを何度も確認せずにはいられないなど、同じ確認をくりかえしてしまうこと。)と類似の疾患と考えられていますが、動物の精神疾患はまだまだ分からないことが多いです。

犬の常同行動の症状

  • 同じ場所をずっと行ったり来たりする。円を描くように回り続ける。
  • 自分の尻尾を追いかけ続ける。
  • 何もない空中を噛もうとする。
  • 体の一部や床などの同時部分を執拗に舐める。

など

今回の相談者
今回の相談者
え!犬にも心の病気があるんですか?でも、うちの子がなぜ??
動物の常同行動は強いストレスにさらされた場合に起きると言われています。
何か心当たりはありますか?
今回の相談者
今回の相談者
う〜ん…よくわからないです…

犬にとってのストレスってどんなものがあるんですか?

そうですね。ストレスのタイプも様々で、怖いことがあったり、環境に変化があったり、周りの人や動物との関係が良くなかったり。

何もすることがなくて暇すぎる、欲求不満というのもストレスになります。

例えば、動物園にいる動物たちの中で、檻の前をずーーーっと行ったり来たりしていることがありますよね?あれも常同行動の一つです。

今回の相談者
今回の相談者
そういえば、私が転勤してから忙しくて、最近は散歩の時間が短くなってしまったし、あまりかまってあげられてないかもしれないです…
それは一つの原因になりそうですね。
今回の相談者
今回の相談者
どうやったら治せるのですか?
常同障害を治す方法は2つあります。環境改善と薬物治療です。

犬の常同行動の治療

常同行動の治療について説明します。

1.環境の改善

ストレスの原因と思われることを無くす。

他の動物がストレスなら、接触しないように工夫するか、または慣れさせるためのしつけ(脱感作療法)を行います。

飼い主との絆の構築

常同行動に対して怒ることはストレスを増強させ、行動を悪化させてしまうことがあるので絶対にしてはいけません。絆の構築には、しほ先生が推奨するホールドスチルなどが有効です。(ホールドスチルについてはこちら

適正飼育

①散歩が短いなら散歩の時間を延ばす。

②遊ぶことが足りないなら、遊ぶ時間をしっかり設ける。

③おやつなどをあげるときに”おやつを探しながら食べる”といった、アクティビティのあるおもちゃを用意する。

④住環境の整備。(十分なおもちゃを準備したり、隠れられる場所を作ったり。猫であれば高いところに登れるようにする、窓の近くに座れるスペースを作る、など。)

2.薬物療法

常同障害、強迫障害は脳の中の神経伝達物質である、ドーパミンとセロトニンが関係しているとされおり、これらに対する薬の投薬が検討されます。

ただ、動物の常同障害についてはまだわかっていない部分も多く、全ての病院で治療が受けられるわけではありません。

今回の相談者
今回の相談者
ということは、とりあえず環境を整えて、正しいしつけをすればいいということですか?
はい。症状の重症度によって、投薬するなど治療の段階は変わってきますが、必ず必要なのは環境の整備と正しいしつけ、そして、常同行動に対して絶対に怒らないことです。

ワンちゃんが生活の中でストレスを感じなくなるためのしつけや、遊び方のアイデアなどはしほ先生にアドバイスをもらうといいと思います。

今回の相談者
今回の相談者
知らず知らずのうちに愛犬にストレスを与えてしまっていたなんて…これからは気をつけます!ありがとうございました!

終わりに ストレスから愛犬を守る為のしつけの重要性

尻尾を追いかける行為にも病気が隠れているなんて、ペットの心のケアにもより一層気をつけていかないといけないですね。

そうですね。まだまだ分からないことだらけですが、一つ言えるのは動物もストレスを感じるし、それが病気につながるということですね。

特に、犬では社会的成熟期とされる1〜3歳頃にこの常同障害を発症しやすいという研究があります。

ということは、子犬期のしつけはとても重要ですが、それだけでなく、成犬になっても正しいしつけと十分なコミュニケーションを継続していく必要があるということですね。
はい。私が以前ドイツの犬の学校に見学に行った時、成犬のクラスで探し物などをする「お留守番時の宿題」というコースがありました。

これもワンちゃんたちを飽きさせないための、そして問題行動を起こさせないためのしつけ方法の一つなのだな、と思いました。

しほ先生、ぜひ生徒さんたちにこういったしつけのコツを教えてあげてください!

【参考文献】

1、内田佳子「常同行動を呈した猫5頭の長期観察報告」J-STAGE,2010年(最終閲覧:2020年4月2日)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/19/3/19_3_95/_pdf/-char/ja

2、荒田明香「犬における問題行動」J-STAGE,2017年(最終閲覧:2020年4月2日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/26/3/26_98/_pdf/-char/ja

3、塩入俊樹「強迫スペクトラム障害と不安障害」精神経誌,2011年(最終閲覧:2020年4月2日)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1130101008.pdf

ABOUT ME
「世界を旅する獣医師」 唐野智美
山口大学獣医学科卒 卒業後、東日本大震災の被災動物保護シェルターを併設する一般動物病院にて診療業務に従事。シェルター閉鎖後は、世界各国の動物事情を体感するために単独で世界一周。帰国後、福岡の救急動物病院にて救急獣医療に従事し、緊急性の高い疾患の診療、手術を多く請け負う。同時期に、人と動物との共生について伝えるための「世界一周動物写真展」を全国5都市で開催した。先進的なシェルターを見学するためのオーストラリア滞在など、日本の動物福祉向上を目標として積極的に活動中。