獣医師の記事

犬が誤飲・誤食してしまった時の対処方法(獣医師作成記事)

犬の問題行動の悩みにもいろいろあります。

その中でも家具などにいたずらをし、結果として食べてはいけない物を食べてしまう事がありますよね。

そんなときにとるべき処置ですが、実は、吐かせるべき時もあれば、吐かせないほうがいい場合もあります

これは命にも関わる重大な問題です。その実例と治療についてお話します。

犬が誤って食べてしまったものは吐かせないほうがいい?

今回は、愛犬がトイレシートと床のマットをちぎって飲み込んでしまったという飼い主さんがご相談にいらしています。とうの先生、よろしくお願いします。
獣医師のとうのです、よろしくお願いします。
今回の相談者
今回の相談者
 初めまして。よろしくお願いします。

私の愛犬は1歳のフレンチブルドックなのですが、先日、トイレシートと床のマットをバラバラにちぎって飲み込んでしまい、病院で吐かせる処置をしてもらいました。

無事に吐き出すことができたのですが、担当の先生に「吐かせる処置も安全ではないよ。」と言われて…

そのときは慌てていて詳しく聞けなかったのですが、こんな風に変なものを飲み込んだときは一体どんな処置をするのか、気づかないままだったり、放っておいたらどうなるのか、改めて聞きたくて相談にきました。

なるほど。まずは無事に吐き出せて良かったです。。

消化できないものをそのまま放っておくと、腸閉塞を起こしてしまって手術をしないといけなくなったり、時に亡くなってしまうこともありますから。

誤って食べた物をを放っておくとどうなるのか?

家具やおもちゃなど消化できないものを飲み込んでしまった時に一番怖いのは、腸閉塞・腸穿孔です。

腸閉塞とは腸に異物が詰まって腸の動きが止まってしまうこと。

単純にものが食べられなくなり嘔吐を繰り返すだけでなく、異物がずっと同じ場所に停滞することで腸が壊死して穴があく(腸穿孔)こともあります。

こういった異物の停滞や鋭い異物による腸穿孔が起きると、腸の中の細菌が腹腔内(お腹の中)にばらまかれてしまうことになり、急性の腹膜炎で亡くなってしまうこともあります。

また、薬物の誤食も危険です。小型犬は成人の体重の10分の1以下であることもしばしば。

つまり、人と同じ薬を同じ量飲むだけで、かなりの量の薬を飲んでしまうことになるのです。

例えば、人の頭痛薬を人と同じ量飲んだだけで、胃潰瘍や急性腎不全で亡くなることだってあります。

今回の相談者
今回の相談者
そうなんですね!もし気づかなかったり病院に行かなかったりしたら、うちの子も死んでしまっていたかもしれないんですね…
はい。トイレシートなどをバラバラにするなら痕跡は残りますが、部屋の何か、おもちゃの一部がなくなっている、というのは案外気づかれず、吐かせる処置や手術をして初めて何を飲み込んだかがわかる、ということもよくあります。

犬がもしも誤って食べてしまった時の処置

相談者様の愛犬は動物病院で吐かせる処置をした、とのことですが、何かお薬を使って吐かせたということですよね?
今回の相談者
今回の相談者
はい。何かの薬を注射する、と言っていましたが、名前は覚えられなかったです。「持病や、今までにけいれんしたことはありますか?」と聞かれました。
おそらく「トラネキサム酸」というお薬を使ったのだと思います。本来は止血剤として使われるお薬ですが、その副作用である嘔吐作用を使って吐かせる処置をしたのでしょう。このお薬と、そのほかの処置について詳しくお話しますね。

誤飲(誤食)をした時に使う薬

誤飲してしまった時に、基本的にまず試すのは催吐処置(吐かせる処置)です。

誤飲から数時間が経つと、胃を通り過ぎてしまって催吐処置が効かなくなることもあるので、「あ!飲み込んだ!」と思ったらすぐに病院に駆け込みましょう!

自宅で塩などで吐かせる方法もあると聞くことがありますが、塩中毒など危険な状況になることがあるので必ず動物病院を受診してください。

早く溶ける薬剤やとがった異物など、獣医師が不要または危険と判断した場合は催吐処置をしません。また、どちらの薬にも反応せず吐かない場合があります。)

トラネキサム酸

静脈に注射します。

本来の用途は止血剤ですが、副作用である嘔吐作用を利用して吐かせます。

つまり、薬の本来の目的とは異なる目的で使う「適応外使用」となるので、飼い主様にもその点を理解していただく必要があります。

その他の副作用として、稀にけいれんを起こすことがあります。

オキシドール

ワンちゃんに飲んでもらって(というより、無理やり飲ませて…)オキシドールの刺激によって吐かせます。

副作用として嘔吐の持続、胃炎があります。ひどい場合は出血性胃炎となる場合もあります。

その他の処置

催吐処置で吐かない、催吐処置が適応でない(薬やとがった異物)、という場合は他の処置が選ばれることがあります。

これらの処置は基本的に全身麻酔をかけないと実施できません。

内視鏡

とがった部分のある異物は催吐処置の際に食道を穿孔させる可能性があるため、内視鏡で取り出します。

胃洗浄

薬物、毒物、チョコレートなどの誤食のときは麻酔をかけて胃の中のものを洗い出すことがあります。

開腹手術

すでに異物が胃や十二指腸を超えて腸に入ってしまった場合は内視鏡が届きません。

小さい異物の場合は点滴をすることで腸の中を流れて行くこともありますが、完全に閉塞している場合は点滴のみの処置では回復は難しいです。

また、胃の中にあっても、大きさ・形状から内視鏡で取り出せない場合があります。

こういった場合は手術でお腹を開けて、取り出す必要があります。

胃切開や腸切開をする場合は、術後に切開・縫合した部分がちゃんとくっつかないといったトラブルが発生することがあります。

今回の相談者
今回の相談者
わ〜…うちの子は吐かせる薬に反応してくれて、お腹を開ける事にならずに済んだのは良かったのかもしれませんね。でも、飲み込ませないことが一番ですよね。
そうですね。散歩や遊ぶ時間が足りていなかったり、お留守番のしつけがちゃんとできていなかったりすると、こういったトラブルが起きやすくなります。その辺りはしほ先生にアドバイスをもらうのが一番です!
今回の相談者
今回の相談者
なるほど。しっかり遊ぶことやしつけが大事なんですね!ありがとうございます。
2度とこういったことが起きないよう、しっかりドッグトレーナーさんと相談してトレーニングをしていこうと思います!

終わりに 犬が誤飲・誤食してしまいやすい犬種と年齢

今回の相談者さんの愛犬は1歳ということでしたが、誤食で病院に来られる患者さんはやはり若い子に多いのですか?
「遊び足りない!」となりやすいという意味で、子犬や若い年齢のワンちゃんに多いですね。

もちろん、もともと活発だったり、遊ぶことの好きな運動要求量の多い犬種、食欲旺盛な犬種は成犬であっても要注意です。

例えばラブラドールとかですか?

そうですね、ある統計ではビーグル、ミニチュアピンシャー、フレンチブルドック、ラブラドールに多いというデータがあります。

そして、誤食を繰り返す子は成犬になっても繰り返してしまいます。

なので、若い頃からのしつけがとても重要なんです!

誤食は命に関わります。しほ先生、今後とも皆さんのトレーニング、よろしくお願いしますね!

状況や犬種によってもアドバイスは異なります。気になる方はぜひ、LINEからメッセージをくださいね。

いまなら、しほ先生をはじめとするプロのドッグトレーナーたちが2週間無料で直接相談に乗っています!

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【参考文献】
1、Therapeutic Updates in VeTerinAry Toxicology
Justine A. Lee, DVM, Diplomate ACVECC & ABT VetGirl (vetgirlontherun.com)
July/August 2014

2、アニコム家庭どうぶつ白書2018 第3部 第3章 疾患(小分類単位)別統計
https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_201812_3_3.pdf

ABOUT ME
「世界を旅する獣医師」 唐野智美
山口大学獣医学科卒 卒業後、東日本大震災の被災動物保護シェルターを併設する一般動物病院にて診療業務に従事。シェルター閉鎖後は、世界各国の動物事情を体感するために単独で世界一周。帰国後、福岡の救急動物病院にて救急獣医療に従事し、緊急性の高い疾患の診療、手術を多く請け負う。同時期に、人と動物との共生について伝えるための「世界一周動物写真展」を全国5都市で開催した。先進的なシェルターを見学するためのオーストラリア滞在など、日本の動物福祉向上を目標として積極的に活動中。