しほ先生のつぶやきコラム

犬の怯え・ビビりは生まれつきじゃない

突然ですが、お宅の愛犬は怖がりですか?

今、めっちゃ多いです、怖がり犬。

「うちの子は怖がりだから、外が嫌いなんです」
「うちの子は怖がりだから、犬に吠えちゃうんです」
「うちの子は怖がりだから何かあるとすぐに私のところに逃げて来ちゃう」
「うちの子は怖がりだから、いつも抱っをせがむんです」
「うちの子は怖がりだから、他の犬と仲良くできなくて・・・」

と、困り顔で話す飼い主さんによく出会います。

でも、本当に「怖がりだから何もできない」のでしょうか?
犬の問題だから、飼い主さんに出来る事はなにもないのでしょうか?

今日は、この「怖がり犬」についてお話をしたいと思います。

「もともと怖がりな犬」?

怖がり・臆病・ビビリは、もともと持って生まれた性質ではありません。

飼い主さんの元へ来る前に既に「怖がりになるように」母犬から教育を受けているために、小さなころから怖がりという犬もいないわけではありませんが、それでも「生まれ落ちた瞬間から怖がり」な訳ではありません。

飼い犬の場合、ほとんどのケースで、犬を怖がりにしてしまうのは、あなた!飼い主さんです。

当然ですが、飼い主さんが、意図して怖がり犬を作ったという訳ではありません。 皆さん、小さな子犬に、健康で幸せな人生(犬生?)を送ってほしくて、言われた通りにキッチリ予防注射して、こだわったフードを選んで、しつけのためにお座りや伏せを教えて・・・・・と一生懸命なのは分かっています。 

「でも気が付いたらうちの子、人嫌い・犬嫌い」なんですよね?

私は犬を怖がらせるようなことは何もしていない! 社会化が大切だって聞いたから外にもつれて行ったし、人にも触ってもらったし! 一体何が悪かったの・・・?

とキツネにつままれたような気持ちだと思います。

今日はこの「犬の社会化」の部分について、ちょっと深堀りしてお話したいと思います。

なぜ社会化期を逃すと犬は怖がりになるのか


犬の社会化については、「社会化期の子犬のうちに色々な体験をさせることが、落ち着いて動じない犬を作ります」と無料の講義の中でお話をしています。

社会化期にある子犬は、恐怖心よりも好奇心の方が勝っています。人が近づいてくれば、喜びます。犬が近づいてくれば遊びたい!と思うんです。この時に、がっつり色々な経験をさせて行けば、なんでもへっちゃらになっちゃうんです。簡単なんです。

でも、子犬の社会期ってめちゃくちゃ短いんですよ。7週~12週までです。

え(*‘ω‘ *)!? ですよね。 7週と言えば生後49日。そこから6週間しかないんです。6週間って、週末にしてたったの5,6回です。「ちょっと仕事が忙しくて」「子供が熱出して」なんてやっているうちにあっという間に過ぎ去ります。

犬の販売が許可されるのは7週齢以降ですから、うちの子になった時点で社会化期を過ぎていたという飼い主さんも多いのではないかと思いますし、予防接種を終えていなかったから、社会化期は自宅で過ごしただけという方も多いと思います。

社会化期に理想とされる期間がこんなにも短いから、日本の犬たちは、揃いも揃って社会化のハードルが上がってしまっているのですよ。

子犬の社会化期はなぜ7週~12週なのか

子犬の社会化が何故7週~12週が適しているかと言うと、母親から離れて外の世界に好奇心が広がり始め、且つはまだ「怖い」という感情をまだ知らないからです。無鉄砲だからこそ、学びが進むのです。

これが、12週を過ぎてしまうと「怖い」という感情が芽生えた後に社会化学習をすることになってしまうので、ハードルが一つ増えてしまうのです。

社会化期を過ぎてしまったら、犬は学習をしない訳ではないんです。子犬は社会化期を過ぎたって、十分に学びます。スポンジのように色々な事を吸収します

でも、だからこそ「怖い」を学ぶのも早いんです。

初めてのお外で、話しかけて来た人に怖がり、すれ違った犬に怖がり、通り過ぎた車の音に怖がり、風に吹かれて飛んで行った葉っぱにビビるんです。

怖がり犬に最も必要なのに社会化しにくいもの

犬が人間社会で遭遇するもので、絶対に社会化をしておきたい対象物は色々ありますが、特に以下に挙げた対象物への社会化は絶対に必要です。

・近づいてくる人や犬
・話しかけてくる人
・触ろうとする子供
・診察する獣医さん
・シャンプーするトリマーさん

犬が人間社会で暮らしていく上で、避けては通れない物ばかりです。

でも、これって同時に、社会化に一番失敗しやすい対象物でもあるんです。

だって・・・・相手が否応なしに近づいてくるんだもの。

犬が「怖い!!」と思っている時に強引に触れ合わせたり、犬に近づかせたりして、怖いというの感情を残したまま体験を終えてしまうと、犬の学習は「怖かった」で終わってしまいます。

マイナスの体験をしたことになります。「怖かったから次からは近づかないようにしよう」という学習をしたという事です。

社会化体験は、ポジティブな体験でなければいけません。

「なんだ、怖くなかった」
「楽しかった」
「面白い!」

そんな気持ちが必要なんです。

だったら、やっぱり社会化期を過ぎたら社会化できないじゃん!と今思っているでしょう? 

いやいや、違うんです。出来るんです。

怖がり犬にしないための、社会化における飼い主さんの役割

ポジティブな社会化を進めるために必要なこと。それは、飼い主さんが「見守る」事です。

社会化期を過ぎてから犬の社会化を進める場合、「恐怖」という感情を知ってしまった以上、恐怖を取り除くプロセスが必要になります。 

ビビった時の犬の反応は様々です。腰が引けて動けなくなる犬もいますし、吠える犬もいるでしょう。

犬が感じている恐怖を飼い主さんが代わりに克服してあげる事は出来ません。「犬が自分で」克服しなければいけません。

ここを皆さん間違ってしまうんですよ。

怖がる犬を見ると、助けちゃうんです。 恐怖の感情を知っているとはいえ、子犬はまだ好奇心も満タンに持っています。「怖い!!!」と思っても、その後様子を見て大丈夫そうだったら、好奇心がむくむくと湧き上がってくるんです。最初の一歩を踏み出せるんです。これが恐怖の克服です。

ここを待てずに、「助けて」上げてしまう飼い主さんのなんと多い事か!

「大丈夫、大丈夫・・・・・・」と抱き上げて優しくしちゃうんです。犬が自ら怖い対象物を確認して克服する機会を奪っちゃうんです。 

結果、怖かった体験だけがトラウマとして蓄積されてゆきます。そして時を重ねるにつれ怖い対象が増え、恐怖を克服する術も学ぶことができずに、どんどんと怖がり犬になって行ってしまうんです。

犬の心の成長を見守る中で、犬の逃げ道がなく、トラウマになってしまいそうな状況になった時だけ、軽く手を差し伸べてください。手を差し伸べるとは言っても、飼い主さんが保護するのではなく、「怖い状況」から一歩身を引いて状況を吟味できる機会や場を作ってあげるという事です。

「怖がらせない」は不正解。犬にとってストレスは必ずしも悪いものばかりではない

怖い思いをさせたり、辛い思いをさせたりすることで犬にストレスが掛かる事を避ける飼い主さんが多いですが、犬にはストレスも必要なんです。「ストレス耐性」つまり、ストレスを自分で解消する術を身に付ける事も成長過程で必要な学びです。

「怖い」と思った時に、そのストレスから自分をどう立て直すかも経験から学習する事です。これを学んでいない犬は、ストレスがかかったときに、その気持ちをいつまでも引きずってしまいます。
ストレス耐性のある犬は、ビックリするようなことがあっても、「ワオ!びっくりしたぜ!」と思った後は、また正常に戻れるんです。

人間もそうだと思うのですが、「過保護」はその個体の成長を妨げます。「自分でやってみなさい」と温かくどっしりとした気持ちで見守る事です。イテテ・・・という経験したって良いじゃないですか。泥んこになって汚れるくらい、良しにしましょ。飼い主はハラハラドキドキさせられるものです。それが子育て・犬育て。

成犬になってしまった怖がり犬はどうする?


犬の社会化は、若ければ若い程スムーズですが、もう既に成犬になってしまった怖がり犬も手遅れではありません。

子犬に比べれば時間はかかります。果てしないプロセスに思えるかもしれません。でも、経験を積めば学習は進みます。恐怖であふれた世界に住む犬を解放してあげましょう。

そのためには、飼い主さんが、「うちの子は怖がりだから何も出来ない」という認識を変える事です。

ここで、怖がり犬を克服するための二つのキーワードを紹介しておきましょう。

一つは、「好奇心」。

怖いという感情よりも好奇心が勝れば、犬は自分から一歩を踏み出すことができます。自分の愛犬が、どんなことに興味があるのか、よく観察してください。 

そして、犬の好奇心を掻き立てるのに一番重要な役割を担うのが「鼻」です。 犬の嗅覚は優れていますから、犬は興味を持ったものの臭いをまず確かめたくなるものです。何かの臭いを嗅いだら儲けもの。気持ちはそっちに傾きかけています。

犬に芽生えた好奇心をどうやって膨らましてあげようか、想像してみて下さいね。

二つ目のキーワードは、「疲れ」。

は?と思いますか(笑)? 犬の恐怖心を取り除くためには、犬を疲れさせると効果的です。

疲れた犬は、心が良い状態にあります。 疲れた犬は、元気がないのではなくて、心がリラックスしているんです。ピリピリした状態にないので、いろいろな刺激に対して寛容になるんです。

子供だって、1日遊んで疲れた後は静かで落ち着いていますよね。疲れて可哀想なのではなくて、「あ~、満足♪」という状態なんです。

大人が仕事でヘトヘトなのとは、少し状況が違うんですね。

ですから、苦手克服の社会化をする時には、事前にがっつり運動をさせてヘロヘロにさせてみて下さい。きっといつもより反応が穏やかですよ!

パニックにならずに、穏やかな心で状況を吟味することができると、「なんだ、大丈夫じゃん」という気持が芽生えます。

繰り返しになりますが、成犬の社会化は時間が掛かります。でも、ポジティブな経験を重ねる事で、確実に一歩一歩前に進むことができます。 「うちの子はビビり」と言う方も、諦めずに社会化を進めて、犬を恐怖の世界から解放してあげて下さいね。