目の下の毛がいつの間にか茶色くなっていく…。犬の涙やけは非常に多くの飼い主さんが直面する悩みです。そして、その涙やけの原因には眼疾患が隠れている可能性があります。涙やけがひどいなと思ったらどうすべきか?毛についてしまった色は落ちるのか?予防策はあるのか?について獣医師目線で解説します。
犬の涙やけの原因
今日は「愛犬の涙やけがひどい」ことに関して、獣医師に相談したいという飼い主様がいらっしゃっています。とうの先生、よろしくお願いいたします。
今回の相談者
初めまして。よろしくお願いいたします。我が家の愛犬は2歳半のマルチーズなのですが、小さい頃は真っ白だった顔まわりの毛が、いつの間にか少しずつ茶色くなってきています。
犬友にも「目の下は涙がつきやすいからね。」と言われたのですが、うちの子は他の子と比べてもひどい気がして気になっています。これは何かの病気ですか?
相談者様、初めまして。よろしくお願いいたします。その状況はおそらく「涙やけ」や「流涙症」と呼ばれるものでしょう。涙が目からこぼれ落ちて、涙の成分や細菌の繁殖などで毛の色が変わっていくものです。ひどい場合は目の下の部分に皮膚炎を起こしてしまうこともあります。
今回の相談者
うちの子は「涙やけ」を起こしているんですね。なぜ涙やけが起きるのですか??
本来、人も動物も涙は目からこぼれることなく、「鼻涙管」と呼ばれる管を通って鼻に流れていきます。人は感動したり悲しかったり、気持ちが高ぶると涙がこぼれ出ますけどね。
それが動物で涙やけの原因になるとは考えられていませんから、また別の話としてここでは置いておきます。
涙やけが起きる原因
涙は、”①涙腺で産生→②目の表面を覆い、下眼瞼で受け止められる→③鼻涙管から排出”という流れを辿ります。このどこかが破綻すると、本来鼻涙管で十分に排出できるはずの涙が、目からこぼれ落ちる状態になります。
①涙腺での産生が多い
アレルギー、各結膜炎、毛が目にあたる(異所性睫毛・睫毛乱世・逆さまつげ、飾り毛)といった原因が考えられます。
②眼瞼に異常がある
眼瞼内反や眼角形成不全といった眼瞼の異常が考えられます。
③排出ができてない
鼻涙管狭窄や鼻涙管閉塞、腫瘍など、涙を鼻に排出できない状態が考えられます。
*鼻涙管:目頭のあたりから鼻に伸びる、涙を排出するための管。
今回の相談者
うちの子もこのどれかが起きているということですか?やっぱり、涙やけは病気と関係しているかもしれないのですね!
その通りなんです。他の子と比べても明らかに涙やけがひどいのであれば、上のような病的な状態が考えられますから、動物病院で診察と検査を受けて涙やけの原因をつきとめた方がいいでしょう。
犬の涙やけの対処方法
今回の相談者
うちの子はマルチーズですけど、マルチーズはこの病気にかかりやすいのですか?
全ての犬種で流涙症、涙やけになる可能性がありますが、小型犬や鼻の短い犬種(短頭種)はなりやすいですね。マルチーズやトイプードルは毛が目に入りやすかったりしますし、パグやシーズーなどの短頭種さんは眼瞼の形に異常が出やすかったり、目が外からの刺激を受けやすかったりします。白い毛が特徴のマルチーズは特に毛色の変化がわかりやすいので、気になる方も多いようです。
今回の相談者
そうなんですね。とにかく病院で検査を受けてみます。ところで、ついてしまった涙やけの色は落ちるのでしょうか…?
残念ながら、完全に落としきるのは不可能です。犬用のシャンプーなどを手にとって、目に入らないようにゆっくりマッサージしながら落とすことがせめてもの方法ですが、それでも完璧に落ちるのは難しいです。
涙やけ対策の商品などもありますが、100%真っ白に戻るとまではいかないかもしれませんね。毛が不清潔にならないよう短めにカットしたり、毎日こまめに拭き取ることで悪化をさせないようにしましょう。
今回の相談者
やっぱり一度ついてしまったものは難しいのですね…。涙やけの予防方法はあるのですか?
原因によっては予防や治療ができますので、下にまとめておきますね。
涙やけの予防・治療方法
①涙腺での産生が多い
- アレルギー→フードやおやつを変える。家でアロマなど犬にとって刺激の強そうなものを使っている場合はやめてみる。
- まつげが目にあたる(異所性睫毛・睫毛乱世・逆さまつげ)→異常なまつ毛を病院で抜いてもらう。
- 各結膜炎→目薬で治療する。(抗生剤や抗炎症剤が必要な場合があるので、必ず動物病院で処方してもらってください。)
②眼瞼に異常がある
- 眼瞼の異常(眼瞼内反・眼角形成不全)→重度の場合は手術での整復。
③排出ができてない
- 鼻涙管の異常(鼻涙管狭窄・鼻涙管閉塞)→鼻涙管の洗浄処置。
- 腫瘍→可能であれば手術などガンに対する治療。
原因次第で予防や対処方法は変わってきますので、まずは病院で何が原因なのかを突き止めてもらう必要があります。逆さまつげや鼻涙管の異常は一度良くなっても再発する可能性があるので、そのことも先に理解しておいてください。
生まれながらに鼻涙管が狭すぎたり、開いていない場合は処置でも改善しないことがあります。
また、目の周りは人ですら触られたくない部分です。検査や処置に鎮静(うとうとする薬を使う)や麻酔が必要となることもありますから、その時は主治医と話し合って決めてください。
他に家でできることとしては、こまめに涙やけ部分を拭いてあげたり、目頭の鼻涙管があるあたりを温かくしたタオルなどでマッサージしてあげたり、飾り毛が目に入るようなら短くカットしてあげたり、毛を束ねてあげたり、といった対処法です。
これらも重要ですから、涙やけに困っている方は実践していただきたいですね。拭くときやマッサージは優し〜くやってあげてください。
今回の相談者
なるほど。わかりました!
病院で涙やけの原因を見つけてもらって、家でも日頃のケアをしていきたいと思います!ありがとうございました。
終わりに 犬の涙やけの原因追及をして愛犬を守る
- 涙やけの原因は、目やまぶたの病気が隠れているかもしれない。
- 涙やけの原因を突き止めるために、まず動物病院で診てもらう。
- 家でできる対策は、毛の処理、こまめに拭くこと、マッサージ。
涙やけは多くの飼い主さんの頭を悩ませていますよね。画期的な対処法はないかもしれませんが、「病気の可能性を考えて病院に行くこと」はまず先にやらないといけないですね!
おっしゃる通りです。ただ毛が目にあたっているだけでも、気にしてこすって角膜潰瘍にまで悪化させたり、涙やけを起こしている部分の皮膚まで荒れて、膿が出るようになることもあります。ごく軽度のものならともかく、「原因のわからないひどい涙やけ」は放っておいていい状態ではないんですよ。
怖いですね〜…。目は繊細な部分だから、しつけが行き届いている犬でも怖いことだとは思いますが、できるだけ病院での検査と処置、家でのケアがしやすいよう、私たちもしつけのサポートをできたらと思います。
心強いです。動物病院での検査と処置は、ペットと飼い主さんの協力があってやっとできることです。犬たちの健康を守るために、今後ともよろしくお願いいたします。