獣医師の記事

愛犬の口臭の原因って!?放っておくと怖い犬の歯周病の話(獣医師作成記事)

口臭の原因は口腔内の悪玉菌。この悪玉菌を放っておくと歯周病に発展し、歯周病は心臓、肝臓、腎臓など、全身の臓器に影響を及ぼすことが研究でわかっています。
特に小型犬の多い日本の犬では3歳以上の犬の70%以上が歯周病または歯周病予備軍と言われています。
そんな恐ろしい歯周病対策のためには「口腔内の悪玉菌を増やさない=口臭を防ぐ」ことがとても大切です。

犬の口臭の原因とは

今日は、イヌバーシティでもよくご相談をいただく口臭と歯磨きについて

・なぜ口臭が出るのか?
・なぜ歯磨きが必要なのか?

というお話を、獣医師のとうの先生にお願いしたいと思っています。
とうの先生、よろしくお願いいたします。

しほ先生、読者の皆様こんにちは。よろしくお願いいたします。
「犬も歯磨きをしないといけない。」ということはイヌバーシティを利用してくださっている多くの飼い主様も理解していらっしゃるのですが、
歯磨きをしないとどんな危険があるのか?」
というところまでは、しっかりと深掘りしたことがなかったです。
今回、その辺りを詳しく教えていただけると助かります。
わかりました。
まず、「犬も歯磨きをしないといけない。」ということをご存知の飼い主様が増えてきていることは、本当に嬉しい限りです。
歯磨きによって口臭と歯周病の予防をすることはその子の命を守るためにとても重要なことですからね。
それぞれ順をおって詳しくお話していきますね。

犬の口臭がひどい理由

結論から言うと、犬の口臭の原因の多くは「口の中の悪玉菌」です。悪玉菌とは体にとって有害な細菌たちのこと。
この悪玉菌が増え、歯周病を起こすことで歯垢や歯石、炎症を起こした歯肉などから臭いが出てきます。ひどい場合は歯の根元に膿がたまり、その臭いがすることもあります。

犬の口臭の原因としては他にも、内臓の疾患、ドライマウス(口腔内の乾燥)、食べ物などが関係していることもありますから、口臭が気になり始めたら動物病院で診察を受けてください。

なるほど。食べた物の臭いがするのは想像しやすいですが、それ以外の原因についてはピンとこない方も多いかもしれませんね。
その中でも歯周病が口臭の原因として多いということはとても重要なポイントですね!
その通りです。
「口臭の原因のひとつに歯周病がある」ということは、「口臭を防ぐことは、歯周病を防ぐためにも大切」ということにつながります。
では次に、歯周病がどれほど怖い病気なのかについて説明していきますね。

犬猫の歯周病の原因と怖さ

獣医療の中でも近年、歯周病は重要な疾患として注目されるようになってきています。

その理由として

①犬猫は歯周病になりやすい
②なのに人より歯磨きが難しい
③歯周病は全身の臓器に悪影響を及ぼす

といった点が挙げられます。

①犬猫は歯周病になりやすい

犬猫の唾液のpHは、人間に比べてアルカリ性にかたよっています。歯石はアルカリ性になるほど形成されやすいため、犬猫は人に比べて歯石ができやすいのです。
歯石のできやすさは人の4〜5倍と言われています。歯石ができると細菌の温床である歯垢(プラーク)が付きやすくなり、さらに口腔内の悪玉菌が増えます。と同時に、歯周ポケットにも悪玉菌が増えていって炎症(歯肉炎)を起こします。
この歯肉炎が悪化すると、膿(根尖膿瘍、歯根膿瘍)になってしまいます。このため、犬猫の歯磨きは最低1日に1回はするべきなのです。

②人より歯磨きが難しい

これは飼い主様本人が一番実感していると思います。犬猫に一所懸命「歯周病の予防のために歯磨きは大事だからね。」と説明しても犬猫には伝わりませんし、そもそも犬猫は自分で歯ブラシを使った歯磨きはしてくれません。
①でも説明しましたが、歯周病では歯周ポケットでの細菌の増殖が大きな問題になるのですが、歯周ポケットのお掃除は歯ブラシでかき出すことでできます。
歯磨きガムや歯磨きのおもちゃを上手に使えて歯の表面は綺麗になっても、歯周ポケットまではお掃除できていないことがほとんどです。

③歯周病は全身の臓器に悪影響を及ぼす

歯周病は歯だけの問題ではありません。①でもお話したとおり、歯の根元に膿がたまる根尖膿瘍(歯根膿瘍)が悪化すると、鼻や目の下の皮膚を突き抜けて膿が出てくることもあります。(これは実際に病院でよく遭遇します。)
また、犬の歯周病は心臓、腎臓、肝臓に悪影響を及ぼすことが研究でわかっています。さらに、犬より研究の進んでいる人では、歯周病が心臓病(心筋梗塞、狭心症など)や脳梗塞の原因となることや、誤嚥性肺炎の原因菌となることが知られています。(他にも、腎疾患、眼疾患、胃腸疾患との関連性も指摘されています。)

驚きました。歯周病は「なんとなく悪そう」ではなくて、「本当に怖い病気」なんですね…。
そうなんです。非常に怖い病気なのに、しつけがうまくできていないと歯磨きすらできなくて悪化する一方です。
歯周病が悪化したら、全身麻酔で手術を受けないといけなくなります。
実際、私の経験でも全身麻酔で歯周病治療をする頻度は非常に高いです。
歯科健診キャンペーンをした時はあまりにひどい歯周病が多くて、避妊去勢手術と同じくらい手術頻度が高くなったこともあります。
え!そんなにですか!?ということは、それだけ多くの犬たちが歯周病で苦しんでいるということですね。
はい。ペット保険会社アニコムさんの調べでは

日本の犬の76.3%が歯周病または歯周病予備軍である。

歯周病で通院している中の26.8%が麻酔下での処置をしている。

ということがわかっています。

歯周病を患っている犬たちは本当に多いんですね。
今日のお話で歯周病の怖さがよくわかりました。

終わりに 犬の口臭予防に歯磨きは愛犬の命を守る


  • 口臭の原因は口腔内の悪玉菌と進行した歯周病(膿)。
  • 口腔内の悪玉菌が増えると歯周病になる。
  • 犬猫は歯周病になりやすい。
  • 歯周病は全身臓器に影響を及ぼす。
  • 日本の70%以上の犬が歯周病または歯周病予備軍。
歯周病がいかに怖い病気か、分かっていただけたでしょうか?
歯周病予防の第1ステップとして口臭予防が大切になってきます。ひどい口臭は放っておいてはいけないのです。そして、口臭&歯周病予防のために重要なのは、なんといっても「歯磨き」です。
はい。歯磨きの大切さがよく分かりました。
ということで、次回は歯周病対策のためのブラッシング術についてお話していただきたいと思います。歯磨きのためには基本のしつけが大切ですから、私からもお話させてもらえたらと思います!

 

参考文献

特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会、「歯周病が全身に及ぼす影響」(最終閲覧日:2020/8/10)
https://www.jacp.net/perio/effect/

兵庫県歯科医師会、「歯周病と全身の病気」(最終閲覧日:2020/8/10)https://www.hda.or.jp/disease/zenshin

Linda J. DeBowes他, “Association of Periodontal Disease and Histologic Lesions in Multiple Organs from 45 Dogs”, 1996(最終閲覧日:2020/8/10)
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/089875649601300201

Zlatko Pavlica他, “Periodontal Disease Burden and Pathological Changes in Organs of Dogs”, 2008(最終閲覧日:2020/8/10)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/089875640802500210

アニコム、「どうぶつ白書」、2018(最終閲覧日:2020/8/10)https://www.anicom-page.com/hakusho/statistics/pdf/100528.pdf

日本獣医師会会報、「小動物歯科診療の歴史ならびに現状と展望」、2005(最終閲覧日:2020/8/10)
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05805/06_5.htm

 

 

ABOUT ME
「世界を旅する獣医師」 唐野智美
山口大学獣医学科卒 卒業後、東日本大震災の被災動物保護シェルターを併設する一般動物病院にて診療業務に従事。シェルター閉鎖後は、世界各国の動物事情を体感するために単独で世界一周。帰国後、福岡の救急動物病院にて救急獣医療に従事し、緊急性の高い疾患の診療、手術を多く請け負う。同時期に、人と動物との共生について伝えるための「世界一周動物写真展」を全国5都市で開催した。先進的なシェルターを見学するためのオーストラリア滞在など、日本の動物福祉向上を目標として積極的に活動中。