犬の避妊・去勢手術の時期について、いつするべきか、そもそもするべきなのか悩む方も多いです。「まだ子どもなのに手術をするなんてかわいそう。」そんな声も聞こえてきますが、犬の発達スピードは人間とは全く違います。犬の避妊・去勢手術の推奨時期というのは、その後の病気のリスクや生活の質などをふまえた上で決められているのです。
今回は避妊・去勢手術によって防げる病気と、いつ手術を受けるべきかについて解説していきます。
避妊去勢手術の時期と病気との関係
そろそろ5ヶ月半で、ワクチンもひととおり終わったので、避妊手術を受けさせようかと思っています。
先住犬のオスのチワワは7ヶ月くらいで去勢手術をしたので、この家で子犬が産まれることはないですが、メスも避妊手術しないと将来乳がんになるかもしれないと聞きました。
これって本当ですか?
乳腺腫瘍は犬猫の腫瘍の中でもとても発生の多い腫瘍ですから、その予防ができるというのは大きいです。
避妊・去勢手術で防げる主な犬の病気
避妊や去勢手術で防げる犬の主な病気を紹介します。
乳腺腫瘍(メス)
未避妊メスに多く見られる乳腺の腫瘍です。この腫瘍の約半分が悪性で、肺など他の臓器にも転移します。初回発情前の避妊手術で乳腺腫瘍1%以下(0.5%)に減少することがわかっています。(未避妊の場合は生涯リスクが25~75%。)
肛門周囲腺腫(オス)
未去勢オスに多く見られるお尻の腫瘍です。大きくなると出血したり、排便が困難になったりすることもあります。去勢すると発生の可能性はほぼ無くなります。腫瘍発生後に去勢することでも、大体の場合で縮小すると言われています。
外傷
海外での大規模調査によると、避妊去勢をされていない犬猫は、されている犬猫に比べて2〜4倍、ケンカや交通事故による怪我が多いという報告があります。
犬の体が子供を作れるようになっていく「性成熟」は、個体差はありますが、実は5ヶ月頃から始まるのです。人では10年ほどかかると考えるとすごいスピードに感じますよね。
いつ手術を受けさせるべきか?についてですが、結論から言うと私は6ヶ月令前後を推奨しています。
犬の避妊・去勢手術はいつする?
”6ヶ月での手術”を勧める理由
獣医が6ヶ月で手術を勧める理由をお話していきます。
ワクチンとの関係
犬では生後2ヶ月から約1ヶ月ごとに計3回の混合ワクチンと、3ヶ月令以上で狂犬病予防接種を受けます。ワクチン接種が全て終わり、体調が安定していることを確認した上で避妊・去勢手術をする流れが一般的です。
病気との関係
女の子であれば乳腺腫瘍の発生率という点では、初回発情が来る前に手術を受けることが望ましいです。犬の性成熟は一般的に5ヶ月ごろに始まります。
しつけとの関係
性成熟が進むと異性に反応するようになります。未去勢のオスでは攻撃性が高くなってケンカをしたり、過度にマーキングをするようになったり、メスの発情に反応してしつけへの集中力を欠いてしまったり、脱走までしてしまったりすることがあります。メスでも、ぬいぐるみやおもちゃを抱えて唸り、飼い主でも手が出せなくなるなどの問題行動が出ることがあります。
乳歯遺残との関係
乳歯が抜けずに残ってしまう場合は、全身麻酔での乳歯抜歯が勧められます。乳歯の生え変わりは5〜7ヶ月ごろに起きるので、この時に抜けそうにないものは避妊去勢手術と一緒に処置をする、という選択肢があります。
*ただし、シェルター内の保護動物など、一般的な飼い犬とは違う環境の場合は、違う選択肢があります。
終わりに 犬の避妊去勢手術で心のケアもしましょう
- 避妊去勢手術で防げる病気がある。
- しつけにおいてもメリットがある。
- 一般的な手術の目安は生後6ヶ月ごろ。
参考文献
橋本 志津 他、「犬の乳腺腫瘍の予後におよぼす卵巣子宮全摘出の影響」、2003(最終閲覧日:2020/8/12)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/12/1/12_1_1/_article/-char/ja/
Annette N Smith,”The role of neutering in cancer development”,2014(最終閲覧日:2020/8/12)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25174910/